TBLとは
詳しくは大学教育創造部門発行の Tips5 をご覧下さい。
TBL: チーム基盤型学習の特徴は,以下の様にまとめられます。
1. 知識をたくさん扱いたい授業に適している
2. 教員は手続き的指示と観察,必要最小限の介入を行い講義は必要ない
3. グループワークで授業を進める
4. 20 チーム(100 人を超える学生数)であっても1人の教員で動かせる
5. 予習(準備学習と呼ぶ)が前提
6. チーム・ビルディングや協同学習の要素が取り入れられているため,グループワークに不慣れな教員でも無理なく取り入れられる
7. 問題を準備する必要あり
準備1 スケジュールの告知
準備学習を前提とするため,少なくとも1週間前までに次の授業の資料を渡す必要があります。教科書を使う場合は毎回のスケジュールを事前に渡しておけばOKです。シラバスに記載してしまいましょう。
毎回小テストを行うので,予習しておくことを指示しておきましょう!
準備2 よせあつめグループを作る
チーム基盤学習の名のとおり,チームとして機能することが重要です。既存の人間関係がチームとしての成長を阻害する場合がありますので,仲良しグループはだめです。出席番号順・・・最悪です。教科書に沿って進め,正しい知識を身につけることを第一に考えるのであれば,競争原理をうまく使うことも考慮して成績が均等(厳密に均等でなくて良い)になるようにグループを作るのが良いでしょう。以下の様にしてグループ分けをします。
1. プレテストや自己診断によって各自を点数化します。
2. 点数順に一列に並ばせます。
3. ナンバーコールさせます。5チーム作る場合は1〜5,10 チーム作る場合は 1〜10 を繰り返しコールさせます。
4. 同じ番号の人でグループを作ります。
5. 微調整,男性だけのチームや女性だけのチームができてしまった場合は点数の近いメンバーを入れ替えてできるだけ男女混合のチームにします。所属の異なる学生がいる場合には,できるだけ混在するようにします。学部専門の授業の場合,男性が極端に少なかったりするでしょう。その場合は各グループ男性ひとりになってもかまいません。できるだけ均等にします。
6. 連絡網を作らせましょう。メンバーが決まったら仲間意識を高めるために連絡網を作らせます。何かと便利です。
準備3 RATを作成する
教科書または事前配付資料に目を通し,覚えてほしいところはどこかを決めます。その部分の文章,理論,キーワード,式,図などを基に4つの選択肢を作成します。そのうち正解とするものはひとつです。人数分+グループ数分印刷します。
RAT:Readiness Assurance Test ラットと読む
準備4 スクラッチカードを作成する
RATの解答用紙にはスクラッチカードを使います。市販のスクラッチカードを買ってきてもOK その場合,スクラッチカードにあわせて選択肢を配置する必要があります。選択肢の順序を自由に決めたい場合には,自作するしかありません。以下の様にして作成します。
1. ケント紙など,厚めの紙に解答用紙をグループ数分印刷します。
2. 解答欄を「裏から見えない修正テープ」で隠します。
授業開始から終了まで
TBLによる授業の進め方をTBLの流れに沿って説明します。
1. IRAT(アイラット:Individual Readiness Assurance Test = 個別準備確認試験)
教科書ノートを片付けさせます。各自に問題を配付し(グループの代表に取りに来させる),各自解答します。問題用紙に直接解答します。解答後,グループごとに集めさせて回収します。
2. GRAT(ジーラット:Group Readiness Assurance Test = グループ準備確認試験)
IRAT回収後,グループワークの準備をさせ,問題用紙1枚と解答用のスクラッチカード1枚を各グループに配布します(取りに来させる)。解答後,解答用紙のみ回収します。
GRAT解答のルール:1 番目の問題について,チームで合意の上正解の選択肢を選びます。スクラッチカードを削り,正解が出たら3点獲得し,2 番目の問に進みます。正解しなかった場合は得点が確定するまで次へ進むことは出来ません。したがって1番から順番に解答しなければなりません。2回の解答で正解した場合は2点,3回では1点となり,3回までに正解できなかった場合は0点となります。
3. アピール:正解できなかった問題1問について,グループの正当性を文章で主張します。きちんと説明文が書かれていることが必要です。論理的にかかれ,証拠があげられているなどしていればGRATに1点を追加します。基準(説明文の書き方)はあらかじめ決めておいて告知して下さい。アピール作成は教科書を見ながら行います。
問題に不具合があっても,解答用紙の正解の位置が間違っていたとしても,アピールしたチームにのみ1点を付与します。アピールでは,しばしば問題の不具合が見つかる場合があり,問題のブラッシュアップができます。アピールのモチベーションを維持するためにも,ハードルは低めに設定しておきましょう。
4. 応用課題:選択式でない問題,論述問題や計算問題,高度な(難易度の高い)問題,過去の予習範囲と組み合わせた問題などを全チームに与え,解答を競わせます。
選択問題では表現しきれない問題を論述問題として課したり,RATの問題を1問作らせたり,模型を組み立てるなど実習課題を課したりします。発表が同時にできることや,正解・不正解がすぐその場で確認できることが重要です。
メンバーの相互評価
中間期と最終回にメンバーの相互評価を行います。各メンバーのチームへの貢献度を点数とコメントで評価し,回答者がわからないようにして本人に返します。
点数は平均 20 点となるように付けさせます。メンバー全員の評価を平均し,成績評価の時にグループ点をその比率でメンバーに分配します。
コメントは「どのような点で最も貢献したと思うか」と「どのような改善をすればもっとチームワークに貢献できるようになると思うか」についてできるだけ具体的にコメントしてもらいます。
注意
*グループのメンバー数は医療系の場合 6 名と言われています。化学の場合は3人〜4人で十分です。取り扱う問題の難易度により決めて下さい。難しい問題を扱う場合は人数が多い方が良いですが,人数が増えるとぶら下がる学生が出てしまうリスクがありますし,意志決定にも時間を要します。
*Positive One の原則:問題は必ず「正しい」選択肢を選ばせるようにします。間違いを選ばせると間違いを覚える傾向が出ます。覚えてほしいのは「正しい知識」のはずです。
*Best One を選ばせる問題は良問でも難易度もアップします。選択肢のうち2つ以上の正しい解があるが,「最適」な解はひとつになる問題は議論を活性化し,記憶に残る良問となります。1回のRATに 5問〜10 問出題する場合,Best One を選ばせる問題は1問か2問が良いでしょう(GRATにかけられる時間によります)。
*ひとつの問題の選択肢は,テキストの1ページ以内にあるようにしましょう。学生が正解を確認する時,まるまる一章読まなければならないような問題は,復習のモチベーションを下げてしまいます。
*IRAT開始からGRAT終了までは正式な試験です。教科書ノートは片付けさせましょう。この間出しても触ってもいけません。
*GRATは必ずやります。部分的に授業に取り入れるため,IRATのみで予習の確認をしてもモチベーションは上がりません。GRATは必須です。
*GRATの解答は順番に! 難しい問題を飛ばしてはいけません。
*GRATの際,多数決に意味はありません。いつまでも多数決で正解を決めているチームには介入しましょう。どれが正解かを議論するのではなく,なぜそれが正解と思うのかを議論させましょう。
*IRATから応用課題までを 1コマで行う必要はありません。2回に分けてもかまいません。ただし,IRATとGRATは一度にすませましょう。またグループワークの成果発表は必ず同時間内に行います。プレゼンを行う場合は全チームが時間内にプレゼンできるようにしましょう。チーム数が多い場合,World Café 形式やポスターセッション形式が良いでしょう。勝ち抜き戦方式も評判が良くないそうです。
*IRATとGRATの比率を 3:7 程度の配分で成績評価に加えます(GRATの割合を大きく)。TBLを中心に授業を進める場合はRATの成績を全体の 6 割以上になるようにします。チームへの貢献が自分の成績を上げ,RATの成績でほぼ自分の成績が決まると思えば,準備学習に熱が入ります。
効果
2 時間予習してくる授業と試験前の一夜漬けのみの授業とでは成績に差が付いて当然。時間外に学習をする授業の方が教育効果が高いに決まっています。こなせる量だってもちろん違います。
・成績が上がる!
・単位の実質化ができる!
・言葉で説明できるようになり,コミュニケーション能力が磨かれます。
・様々な能力を開花させ,元気になります。
・何より授業が楽しくなります!
こぼれる学生
TBL の授業を嫌って履修しない学生がいます。能力や能動性に問題あり,修学の継続や卒論,就活で顕著化するでしょう。本人のためにも早く手を打ってあげた方が良いかも。カリキュラムの中にアクティブ・ラーニングを位置付けし,グループディスカッションを1年から切れ間なく3年間続けるべき。逃げ道があれば楽な道を選ぶ学生は絶対にこっちの世界に入ってきません。気付いたときは手遅れです。
授業改善 → カリキュラム改善
参考
・高知大学総合教育センター 大学教育創造部門作成 Tips
・TBL-医療人を育てるチーム基盤型学習 株式会社シナジー
Larry K. Michaelsen 他著,日本語訳監修:瀬尾 宏美(高知大学医学部総合診療部 教授)
医療系に特化した内容ですが,TBLの手法は文系,理系問わず共通です。必ず参考になる唯一のTBL日本語教科書です。
・ e-Learningシステムを用いたチーム基盤型学習の導入
平成23年3月 高知学園短期大学紀要
濱田美晴,髙畑貴志,立川明,三島弘幸
・ e-Learningシステムを用いたチーム基盤型学習(TBL)の導入
平成23年3月 第56回次世代大学教育研究会発表
髙畑貴志,濱田美晴
・ 授業改善実質化の一手法-TBL(チーム基盤型学習)の紹介-
平成23年5月28日 第59回中国・四国地区大学教育研究会
濱田美晴,髙畑貴志,三島弘幸,立川明
TBLワークショップします
3時間程度でTBLを体験するワークショップを行っています。お気軽にご相談下さい。
問い合わせ先:高知大学総合教育センター・大学教育創造部門 立川 明 まで