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  一目でわかる「海底鉱物資源」

高知大学 海底鉱物資源研究室 臼井 朗
(海洋コア総合研究センター) 

2016.8.24 更新  

概要・分布overview/distribution



詳細説明

海の資源
主要3タイプの特徴
開発の段階
金属含有量

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各種海洋鉱物資源の説明

1)溶存物質海水溶存物質
食塩類,マグネシウムなどの塩類は既に商業的に採取されている(或いはされたことがある).また低濃度の海水溶存有用物質の抽出の可能性は古くから指摘され[Mero,1964],現在でもウラン,リチウムなどの効率的・迅速な回収法について様々な実験研究が行われている.我が国でもウラン抽出のテストプラントが建設されたが操業には至っていない.将来,海水の淡水化などが大規模に実施されれば,副産物として回収できる可能性は高い.

2)骨材資源☆砂・砂利 (骨材資源 )      
 浅海域の資源として,コンクリート用骨材はわが国でも広く商業的に採掘されており,土木・建築分野においては無視できない供給源である.陸上の採石に対する比率はまだ小さいものの,需要の絶対量が大きいため重要性が高い.しかし,自然景観・地形,沿岸構造物,水産資源,地域環境等への影響が認められる場合もあるため,制約も多い.(現在は採掘が制限されている.)

3)砂錫☆漂砂鉱床
 漂砂鉱床は比重の大きい砂サイズの粒子が海底面またはその近傍下部に濃集したもので,有用鉱物としては,錫,チタン,鉄,レアメタルに富む重鉱物,ダイヤモンド,貴金属などが挙げられる.開発が進んでいる例としては,タイ,インドネシアの沿岸域の錫石(スズ酸化物)が重要で,その総生産量は世界の1割以上を占める.その他の漂砂鉱床は,沿岸域,特に安定大陸周縁において調査が実施されているが,商業探査が実施されているのは一部である.一般的にその規模,濃集度は陸上のものに比べて低く,商業的採掘に至っている例は少ない.潜在資源としては北米?アラスカの西岸域の金・白金,南アフリカの砂ダイヤ,モザンビーク沖のレアメタル鉱物,東オーストラリア,インド沿岸の重鉱物等が指摘されている[Teleki,2000] .水深200m以浅の海底は全海洋の面積の8%弱を占める広大な地域であり,今後の調査海域として重要である.

4)燐灰石
 燐は肥料,化学薬品の原材料として不可欠の元素である.海洋では空間的に偏在性の高い元素の一つであり,水深から見ると浅海域に多く,地理的には生物生産性の高い低?中緯度帯に多い.栄養塩に富む深層水が湧昇する生物生産性が高い環境下で燐酸塩の沈殿が促進されるため沈殿すると考えられている.海洋では燐は燐灰石(カルシウムの燐酸塩)として大陸棚,海洋島周辺,海山,海台など地形的高まりに多く分布する.これらのうち,規模の大きいものは大陸棚に分布するものであり,米国南東岸ブレーク海台,メキシコ西岸,コンゴ,南米西岸などに広い分布が知られている.遠洋の海山にも一般的に認められるが分布の実態はよくわかっていない.日本周辺では,小笠原海域など太平洋の海山,海台に報告が有るほか,日本海東縁部,四国・九州の太平洋岸などに散点的な記載がある.

5)マンガン団塊
現在,最も有望な未来の海底鉱物資源として注目されているのは,マンガン団塊,コバルトリッチマンガンクラスト,塊状硫化物鉱床の三つである.その理由は広い分布と高い金属含有量である.その中で,商業採掘の段階に最も近いと言われているのが,マンガン団塊である.1860年代の発見以来,地質学,地球化学の研究対象であったが,100年後の1960年前後に,経済的価値が指摘された.1958年に始まった国連海洋法会議においてはマンガン団塊の開発に関して,先進国と途上国の利害が対立し,国連海洋法条約の採択(1982年4月)から発効(1994年11月)まで,12年の歳月を費やしたことはよく知られている.
 世界の大洋における広域的スケールの濃集率・組成の分布概要は1970年代までの世界各国の調査結果から明らかにされており,特に太平洋においては,数百km規模の大鉱床は既に発見されたと考えて良いであろう.太平洋では北東赤道地域(Mn Nodule Beltとも呼ばれる),中央太平洋海盆北部,南太平洋タヒチ西方の深海盆,南東太平洋ペルー海盆に広い高濃集域がある.インド洋中部,南アフリカ南方にも濃集域が認められ,南極大陸の周辺の深海盆にも中規模ながら濃集域が確認されている.一般に高濃集率地域では濃集率(1m2当たりの団塊湿重量)が10 kg/m2を超える.しかし,変動,偏在性の規制要因の解明も含めて多くの地球科学的及び工学的課題が残されており将来の精密調査が待たれる.
 団塊は別名多金属団塊(polymetallic nodule)とも称されるように,多種の金属から成ることが特徴の一つである.マンガンと鉄の酸化物を主成分とし,平均0.1%を超える元素は20近くある.高品位団塊と言われるものはニッケルと銅の合計が3%に達する.
 マンガン団塊は海洋で形成される化学堆積岩である.堆積速度が小さく且つ酸素を含んだ海水が供給される深海底に分布している.この2条件が地質スケール(数百万年のオーダー)で長期間保持される環境,例えば堆積速度の遅い深海底や海山などの地形的高まりに限って認められる.海底面の団塊は現在も成長しているが,その成長速度は極めて小さく百万年に数mm?数cm程度である.成因的には海水からの酸化物粒子が直接沈積する「海水起源」,海底表層の弱還元層におけるMnの溶解と再沈殿「続成起源」の2通りがある.ニッケル・銅の鉱石とみなされるのは後者に起源を持つ団塊である.

6)マンガンクラスト

 1980年にドイツと米国の共同調査において,中部太平洋の海山にコバルト含有量が1%を超えるマンガンクラスト(コバルトクラストと略されることもあるが不自然)が多量に分布することが発見されて以来,潜在資源リッチとして注目を浴びている.同時期に,中央アフリカのコバルト産出国における内戦が原因となってその市場価格が4倍近くまで高騰したことが,その後の先進国における基礎科学調査・探査活動の動機となった.マンガンクラストは団塊の項で述べた2つの成因のうち,海水起源にあたる.団塊とは形状が異なるが基本的に同じ成因を持ち,百万年に数mmの遅い成長速度である.ライン,マーシャル,ミクロネシア諸島などの太平洋の海山群,海山列に広く最大10cm程度の酸化物層として発達する.鉄とマンガンの酸化物を主成分とし,0.1%オーダーのコバルト,ニッケルを含有する.特にコバルトの平均含有量はしばしば0.6-1.0%に達する.コバルト以外の金属成分では白金と共に,稀土類元素,チタンなども注目される.団塊に比べ調査デ?タは少ない.日本周辺では小笠原諸島の東方,伊豆-マリアナ弧,九州南方の海嶺に散点的に認められる.
今後,他の地域でも新たに発見される可能性は大きく,地域を広げた,さらに詳細なスケールの調査研究が望まれる.

7)熱水性硫化物
 第三に,海底の重金属資源として最近注目を集めているものは海底熱水鉱床である.海底熱水鉱床は海底地殻に浸透した海水がマグマなどの熱源によって高温になり,岩石から重金属を溶脱し,割れ目などを通じて海底に噴出する際,硫化物などとして沈殿が形成されたものである.噴出熱水の温度は400℃を超える場合もある.海底熱水鉱床の産状・組成は,陸上の同種の鉱床と同じく多様であり,金属硫化物の他,硫酸塩(重晶石,石膏など),酸化物(鉄,マンガン),珪酸塩(シリカ,粘土鉱物など),炭酸塩鉱物などが報告されている.一般的には,高温熱水の噴出によってもたらされる多金属塊状硫化物に限定して使われる.1978-1979年に東太平洋ガラパゴス海嶺において,フランス,米国の潜水調査によって始めて発見された,高温熱水噴出現象は世界の海底で次々と発見されるようになった.周辺に沈殿する硫化物は銅,鉄,亜鉛,鉛などを主成分とし貴金属などの有用物質を副成分として含んでおり経済価値が指摘されるとともに,熱水,生成鉱物,一連の生物・微生物群などは第一級の科学研究の対象でもある.調査には潜水船または特殊な海洋化学調査機器を装備した調査船に頼らざるを得ないため,その全容はは明らかになってはない.さらに,海底下にも過去の熱水鉱床の存在が予想されるが情報は皆無である.
 中央海嶺系,島弧の火山,リフト系,およびホットスポット系である.東太平洋海膨,大西洋中央海嶺,インド洋中央海嶺などの中央海嶺系の中軸谷,トンガ・ケルマデック弧,北フィジー海盆,伊豆・マリアナ弧,南西諸島弧などで,続々と生きた海底熱水鉱床が発見されつつある.今後もさらに多くの海域で発見が続くことが予想される.

8)その他の資源
 これ以外に有用物質が濃集した物質としては,浅海域の重晶石(バリウム),海緑石(カリウム)などがある.その他,骨材資源としてプランクトン遺骸から成る石灰質堆積物,珪質堆積物,宝石としての深海サンゴなどが挙げられる.海洋における分布実態,経済評価などについて曖昧な要素が大きく今後の調査が待たれる.

 

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