Fish Nutrition Lab. Kochi University
 海洋資源科学科 海洋生物生産学コース 水族栄養学研究室

 

柚子鰤王の開発経緯

柑橘系養殖魚(フルーツ魚)がマスコミ等に取り上げられる機会が増えました。取材を受けたりすることも多く、そのたびに同じような質問をされます。また、個人のブログ等では誤った情報が発信されている事があるので、きちんと柚子ぶり【柚子鰤王】の開発の流れを記すことにしました。


一番初めに香る養殖魚として開発・製品化したのは、この栄養研と東町漁協(岩本水産)の柚子鰤王【柚子ブリ】です。

マスコミ等で言われているような消費低下の改善は考えておらず、養殖魚の評価をあげるために美味しい魚を作ってみたかったのが本音です。養殖だからできる魚として養殖魚であることを前面に出せる初めての魚を作れたことには満足しています。

始めた理由など

深田が高知大学に着任。年度なかばに「土佐のお魚づくり」という学内の取組で、ブランド魚の開発をするようにとの指示を当時の教授より受ける。専門は魚類生理学(とくに内分泌)だったこと、これまでの実験魚はサケ科魚類であったことから、研究分野の変更(→飼料学・栄養学)と実験魚の変更(サケ科魚類→ブリ)に戸惑う。

きっかけ&ネタ探し

ブランド魚を餌から開発することを目的とすることに。養殖関連の雑誌「養殖」・「アクアネット」を読んでネタを探す。ブリでは、血合い肉の褐変が問題になっていることを知り、それをポリフェノール等の抗酸化物質で抑制できることを知る。
 四国、または高知らしい原料で抗酸化効果が高いものを探す。→その結果、高知の「柚子」、香川の「オリーブ油」*に着目し、研究を始める。研究資金は2つの試験で30万円くらいだった。
 森岡先生の指導のもと、ともに抗酸化効果等で褐変を抑制することを水槽の試験で確認。試食の際に、ユズ果汁を添加した飼料を食べた魚の身から柚子の香りをすることを確認。→これはブランドになると思い、自分でデータを持込み、採用してくれる生産者を見つけに鹿児島へ。*鹿児島県東町(あずまちょう)漁協で採択が決まる。特許申請をするために大学の知財部門と契約弁理士に相談したが、取得の見込みがないということで却下される。

*オリーブについては、採算が合わないこと、香川県がオリーブの葉で同様の取組をしていることを知り、論文報告後、撤退。オリーブ油は価格が高いけど、ブリがさっぱりとした味わいになるので、好きでした。今は、栃木のブランド鱒「やしお鱒」で使われているようです。オリーブのしぼり粕も良さそうと思っています。これはまだあきらめていないので、小豆島などでできたら楽しいと思っています。
*高知では知り合いがいなかったこと等があり、ブリ養殖日本一の鹿児島県に飛び込むことにしました。

さらなる検討と現場での試験

研究室の水槽試験では、柚子の果汁以外の原料の検討(柚子皮、乾燥ユズ皮),添加量の検討を行う。漁協ではなく、ユズ果汁の調達のためにJA巡りをする。(沢村名誉教授のおかげで調達に成功)。
 東町漁協(岩本水産)で、生産試験を行う。モイストペレットで1月くらいに行うがあまり香りがのらず、基本飼料と添加時期を再考することに。

さらなる検討と現場での試験、そして販売へ

研究室では、添加時期も含めた検討を行い、その成果をもって現場での試験を行う。JST高知より、研究資金を頂く(140万円程度)。香気成分の検出を沢村先生と柏木先生に依頼、ブリの身へ香気成分が移行することを確認。市販のブリで柚子の香りを確認!しっかりとした販売先も決まらないまま、販売開始。購入先では好評だったとのこと。この頃から、本当に香るのか?果汁を搾ってかけたのと何が違うの?*といった問いを受ける(現在でもそれは続いています)。

*居酒屋さんなどでも、養殖魚には果汁を使って処理しているところがあります。柚子を餌に入れると、魚の嫌いな人が苦手とする臭いをほとんどなくせることと、脂の質感が変わります。舌の上で溶けて無くなる速度が速いようです。なので、脂はあるけどさっぱりした食感になります。

生産と販売促進活動

オリーブハマチが香川県のバックアップの下に行われていることを羨ましく思いつつ、生産者とともに販売方法を模索。個別宅配を岩本水産で開始。この頃から、ユズ果汁に加え、無農薬の柚子皮ペースト使用開始(四国総研さんより紹介をうける)。現場での生産方法がほぼ決定される。大分でかぼすブリに取り組むという話を耳にする【2007年度かも?】

赤潮被害と果皮研究の本格化

今年度こそ売上げを増やそうといったときに、赤潮が大発生。岩本水産も深刻な被害を被る。しかし、生産・販売を継続。この頃、愛媛県よりミカンを使ったブランド魚について相談を受け、いくつかアドバイスをする。藤原拓教授が代表を務めるCREST事業に参加することになり、水源汚染の削減として柚子皮利用の本格的な研究に着手。

赤潮被害と果皮研究の本格化2

再び、赤潮が発生し、柚子ぶりの生産を続けるかどうかの岐路に立つ。岩本水産の理解もあり、生産・販売を継続。みかんぶりの研究報告を目にするともに、くら寿司での販売を耳にする。CREST事業で、柚子皮ペーストの適切な使用方法を検討(魚の成長を遅らせず、かつ環境負荷を増大させないこと)。ユズ果汁の研究成果を水産学会誌にて発表。

ユズ果汁とユズ果皮

高知県の産業振興計画の1つとして、養殖魚のブランド化が提案される。柚子皮の飼料への利用が採択される。鹿児島のユズ果汁を主体とし、香りの付加を目的とした「柚子鰤王(柚子ぶり)」と、柚子皮を利用した「土佐ゆずぶり」のすみわけに悩む。柚子鰤王の宅配は継続。いくつかスーパーやチェーン店に展開。柚子皮を使って育てたブリを様々なところに発送したところ、くら寿司さんから良い返答を頂く。直七(田熊すだち)のプレ試験も行う。

柚子鰤王と土佐ゆずぶり

引き続き、すみわけに悩みつつ、他の柑橘系養殖魚の生産が順調そうで驚く。各県で似たようなブランド魚が立ち上がり、オリジナリティというものが無いのか!と少々気分を悪くしながらも、養殖魚が話題になることを嬉しく思う。柚子鰤王は取扱スーパーが買収され、先行きが不明になり焦る。高知のゆずぶりが土佐ゆずぶりとして、くら寿司で販売される。
ここで、すくも湾・高知県関連の事業を諸事情により深田は撤退する。柚子皮の利用についての研究成果を水産増殖誌にて発表。

柑橘魚【フルーツ魚】がいっぱい!

 小売り・飲食をバックにもった生産グループがどんどん新しい柑橘魚を開発。マスコミでの報道多数!しかしながら、グループ*によって作っている魚のコンセプトが異なる。消費者に誤った情報を与えられることを懸念する。(フルーツ魚という表現もそれほど好きな表現ではないけど、一般受けは良い模様なので使い始めました)。香川や愛媛の広報の上手さを感心するとともに羨ましく思う。柚子鰤王も元祖の意地を見せるべく、高品質で良い商品を生産しつつ、取引先と交渉中。柚子皮の利用についての研究成果をJournal of Aquatic Food Product Technology にて発表。商売の厳しさを垣間見、柑橘事業から撤退しようと考えていたところに広島県から受託試験の御願い。大学の後輩の御願いとあっては断れず、これで最後にしようと思いつつ、新規のブランド魚開発に着手。

あたたハマチto(と)レモンとまだ人気が続くフルーツ魚!

ハマチ不足等の理由で柚子鰤王の生産を休止。ユズ果汁も不足していたので、結果として休止で良かったのかもしれない。その分、広島からの受託事業である阿多田島漁協のブランドハマチ開発に専念する。フルーツ魚の人気は継続しているようで、安心するとともに、心配ごとも増える。やはり柑橘の乾燥した皮をいれただけの餌で育てて販売する動きを耳にする。乾燥した皮だと香りも付かないし、身持ちもしないので、本当に意味がありません。イメージダウンをするような魚を作るのは本当に止めて欲しい。あたたハマチto(と)レモンのお披露目会(大試食会)に参加し、やはり研究と産業を繋ぐにはコーディネーターが不可欠と実感。今回は広島県庁、大竹市の方々がその役を担ってくれました。いい魚を作って、きちんと売れる道筋を作れる様に関係者とがんばりたいと思います!

柚子鰤王の復活とあたたハマチto(と)レモンの販売開始!

柑橘系の研究を水産技術の1つとして認めて頂き、日本水産学会より水産学技術賞を受賞。長崎や宮崎からも柑橘を使ったフルーツ魚が登場。後は佐賀県か!?元祖の柚子鰤王も復活が決定。広島のあたたハマチ(to)レモンも今年度から正式に販売予定。ブームではなく定着しつつあるのかなと思っています。

柚子鰤王の復活とあたたハマチto(と)レモンの販売!

あたたハマチtoレモンは順調の模様。
柚子鰤王は、香りを維持するための出荷計画の改善が必要に。
そして瀬戸内海?産「柚子鰤」が現れて困惑。

柚子鰤王とあたたハマチto(と)レモンの販売!

柚子鰤王とあたたハマチtoレモンの生産・販売を継続!

柚子鰤王、残念ながら終売
あたたハマチtoレモンは継続!

地域の理解とサポートって大切
技術と販売は別物と痛感。

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