アルデヒド脱水素酵素


 芽体でレチノイン酸が働いているならば、その合成酵素が芽体にあるはず・・・。
レチノイン酸(酸)は、一般的にレチナール(アルデヒド)の酸化によって生じます。
この化学反応を触媒するのがアルデヒド脱水素酵素(aldehyde dehydrogenase, ALDH)
です。生体内では、アミノ酸の代謝過程などでいろいろな種類のアルデヒドが生じます。
そのため、さまざまな種類の ALDH が働いています。これらは、それぞれ別々の
遺伝子から作られるのですが、そのアミノ酸配列は互いによく似ているので、配列を
見ても基質が何であるか予測できません。
 芽体では、ALDH の酵素活性が上昇しています。しかも、レチノイン酸で処理すると
この活性がさらに高くなります。そこで、芽体で発現量の増える ALDH 遺伝子の
cDNA を探しました。下図は 3 種類の ALDH 遺伝子の mRNA の量を Reverse
Transcription-Polymerase Chain Reaction (RT-PCR) という方法で調べた結果です。
aldh-9 の mRNA は親個体にも芽体にも同じ量だけそんざいしています。それに比べて
aldh-P7 の mRNA は、(親個体にもありますが)、芽体においては、発生が進むに
つれて、徐々に mRNA 量が増えていることがわかります。また aldh-P18 の mRNA
は、芽体の発生が始まって 36 時間たって突然あらわれます。
 これらの ALDH が、実際にレチノイン酸を合成するのかどうか、それが次の問題です。
 


 

@ は親個体、A〜C は芽体が親から離れて 12 時間、24 時間、36 時間後の
芽体から抽出した RNA を用いて行った RT-PCR の産物。黒いしみが大きくて
濃いほど mRNA の量が多いことを示しています。
 

参考文献

藤原滋樹・川村和夫 (1996) 芽体形成のメカニズム 遺伝第50巻12号 pp. 29-34.
Kawamura,K., Hara,K. & Fujiwara,S. (1993) Developmental role of
     endogenous retinoids in the determination of morphallactic field in
     budding tunicates. Development 117: 835-845.
Harafuji, N., Miyashita, S., Kawamura, K. & Fujiwara, S. (1996) Molecular cloning
   and expression of aldehyde dehydrogenases in the budding ascidian
   Polyandrocarpa misakiensis. Mem. Fac. Sci. Kochi Univ. (Ser. D) 16/17: 7-16.