研究紹介

ピーマンを利用したフラボノイド生産技術の開発と薬用利用

ピーマンって何?

 ピーマンは別名アマトウガラシ(甘唐辛子)とも呼ばれその名の示すとおり甘いトウガラシであり、トウガラシの栽培品種の一つです。つまりピーマンと唐辛子は同じ種で学名をCapsicumannuum、和名をトウガラシといいます。これに対して、沖縄で栽培されているシマトウガラシ(島唐辛子)やタバスコの原料であるタバスコペッパーはC.frutescensL.(和名:キダチトウガラシ(木立唐辛子))であり別種であるす。これらの他にも、ハバネロ(C.chinenseJoge)、アヒ(C.baccatumL.)、ロコト(C.pubescensRuiz.EtPav.)などが近縁種として知られ、辛味香辛料として利用されています。(図1)

図2a Capsicum annuumの例

ピーマンは害虫に強い?

 高知県はピーマン栽培の盛んな地域ですが、ピーマンの生産現場を見て回ると、ナスやキュウリに比べて害虫による被害が極めて少ないことに気づかされます。トウガラシに含まれる辛味成分であるカプサイシンは哺乳動物に高い毒性を示すことが知られているうえ、昆虫に対しても摂食阻害活性や毒性を示す事例が報告されていて、トウガラシの自己防御に貢献していることは容易に想像できます。しかし、この辛味成分が失われたピーマンも害虫に抵抗性を示す事実はとても興味深く、その抵抗性発現機構の解明を行うことにした。

 ピーマンの葉には害虫であるマメハモグリバエ(LiriomyzatrifoliiBurgess)に対する産卵阻害活性が存在し、それが溶媒抽出可能な産卵行動を阻害する化学物質に起因することを見出した。その化学因子を追求した結果、図2に示す5化合物を産卵阻害活性物質として単離同定しました。特にフラボノイド二配糖体であるLuteolinapiosylglucosideは植物体中に最大12,000ppm以上も含まれており、ピーマンのマメハモグリバエに対する抵抗性発現に中心的な役割をはたしているものと考えられます。

図2 ピーマンの葉から同定されたマメハモグリバエに対する産卵阻害物質

大量のフラボノイド!

 ピーマンから同定されたルテオリン二配糖体(Luteolinapiosylglucoside)はマメハモグリバエの産卵行動を極めて強く阻害することから害虫防除に利用可能と考えられます。一般にこのような天然由来の生理活性物質は、活性の程度やコストの面から薬剤開発のリード化合物として利用されるにとどまることが多いのですが、このルテオリン二配糖体はピーマンの葉に乾燥重量に換算して約10%も存在することから、そのまま資源としての利用が可能であると考えられました。
 また、ピーマンの葉はピーマン栽培後には利用価値が無いため、産業廃棄物として焼却されたりあるいは土中に埋設されたりしており、手間やコストが農業経営上の問題にもなっていましたので、廃棄される植物体をフラボノイド製造の新たな資源と位置付け有効利用を目指しました。ところが様々な社会情勢からこれを農薬として利用することは困難であることが判明し、さまざまな規制緩和を待たねばならなくなりました。

図3 ピーマンの葉を利用した有用物質生産スキームと利用用途

 そこでルテオリン二配糖体そのものではなく、アグリコンであるフラボノイド自体や修飾している糖の部分に注目しました。ルテオリン二配糖体を緩やかな酸触媒下で処理すると加水分解され、糖と一配糖体のみを製造することが可能であることが分かりこれらも新規の資源として利用可能となりました(図3)。
 こそこでルテオリンやアピオースの有効利用方法を開発することにしました。

ルテオリンの抗菌活性

図3 ピーマンの葉を利用した有用物質生産スキームと利用用途

 フラボノイドは活性の強弱を別にすると抗菌活性を示すことが多いのですが、我々の試験結果からもそれが確認されました。
 興味深いのはルテオリン二配糖体は抗菌活性を示さない一方、アピオースが脱離された一配糖体は枯草菌に対しては強い抗菌活性(図4に阻止円が観察される)を示し、さらにアピオースには微生物に対する増殖促進活性が確認されたことです。

 このように抗菌活性が見られたルテオリン一配糖体は抗菌剤への利用が待たれますが水への溶解度が低く実用には至っていません。水溶解性を高める工夫をするか、脂溶性条件下での利用方法を検討する必要がありそうです。

破骨細胞分化抑制活性

 骨は成長してしまうと変化していないように思われがちですが常に破骨細胞により破壊され骨芽細胞により作られています。この破壊と構築の微妙なバランスのもとに我々の血中カルシウムと骨が存在します。このバランスが崩れると骨粗しょう症(破壊>構築)や大理石病(破壊<構築)が生じます。特に近年では破骨細胞が活性化されすぎて生じる骨粗しょう症が増えており問題になっています。

 破骨細胞は造血幹細胞から分化しできる細胞です。そこで人工的に造血幹細胞から破骨細胞を分化させる時にルテオリンを与えることで分化に対する影響を観察しました。すると20mM加えた試験区では対照区や2mM区と比較し破骨細胞の分化が抑制されことが判明しました(図5)。
これらのことからルテオリンが骨粗しょう症の予防あるいは症状軽減に有効であると考えられ今後の動物試験や臨床試験の結果が待たれます。

図5 培養細胞を用いた破骨細胞分化抑制活性

さいごに

 このようにピーマンの葉から害虫抵抗性物質として見いだしたルテオリン二配糖体(Luteolinapiosylglucoside)を加工することでいくつかの利用用途が見いだせました。今のところ実用化には至っていませんが、今後も新たな利用用途の開発、利用方法の改善を研究してゆく予定です。

興味のある方はご一報ください。

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